万葉歌人に倣う、夏の愉しみ

来年、私たち親子はひとまず日本を離れる予定だ。

ならばその前に日本でしておきたいことは、と改めて考えた。

  1. 日本を愛でること
  2. 家族や仲間と可能な限り時間を共にすること

大きくは、この2つに集約されることに気づく。


戦後教育の影響を素直に受けてしまった私は、けっして愛国心が強いほうではない。そのせいか、自国文化に特に興味が沸かないまま、大人になってしまった。学生時代は現在に輪をかけてポンコツだったので、義務教育の授業で絶対に習うレベルの歴史や地理の知識もあやしい。

またテレビがない生活を長年していることもあり、流行にも疎い。

つまり、過去現在の「にっぽん」について、知っていますと自信を持って言えることが何もないのだ。

海外に出ると、自国に関する知識や愛着が希薄なことに気付かされる。そのたびに「自国について何か学びたい」と (やっと) 思うのだが、日常生活において優先順位が高くないこともあり、その後何年も放置してしまっている。

人は期限を設けられると、具体的なアクションを起こしやすいものだ。この機会にしっかり「にっぽん」を体感し、堪能しようと思う。

五感で味わえる、にっぽんの夏

そして早速1と2を兼ねて、気の置けない仲間たちとともに、日本の夏を愛でに行ってきた。行き先は、横浜駅から40分ほどバスに揺られた先にある「横浜三渓園」。

三溪園は、生糸貿易で財を成した実業家である原 三溪氏が 明治39年に公開した、歴史ある日本庭園。園内では春の桜、秋の紅葉をはじめ、 一年を通して日本の四季を愛でることができる。

そして、夏。三渓園では蓮の花が咲く。

これから本番ね。

入口で係の方がご丁寧に、今年は少し開花が遅れていまして…と、申し訳なさそうに伝えてくださる。

開花状況はホームページを確認していたので、存じております、と答える。自然のものは、人の思う通りにならなくて当然なのだ。

丁寧に一言添えてくださるあたりが、にっぽんだなぁ。と思う。

今回は14輪、可愛く咲いておりました。

蓮の季節には、早朝観蓮会なるものが催されていて、通常は9時に開園のところ、この時期のみ早朝7時に開園される(期間中の指定日のみなので、要確認)。

なぜなら蓮の花は早朝に開き始め、お昼には閉じてしまうからだ。

先に惹かれたのは、実はこちらだった

そして、次いで魅力的なのは、園内の茶店でこの時期に限定の早朝を頂けること。蓮を観賞した余韻に浸りながら頂く、特別な朝食…。想像しただけで「行くしかない」と我々は思った。

花より団子とは、本当によく言ったものだ。人の本質を見事に表した名言である。

「三溪園茶寮」の朝がゆ。手書きメニューが可愛らしい。

5つ星ホテルの優雅なモーニングは、間違いなく贅沢な朝食のひとつだろう。それも勿論いいけれども、日本庭園にあるオープンエアの茶室での和定食もまた、とびきりの贅沢だ。

本領発揮

蓮の花と朝食にばかり気を取られていたが、恐らく三渓園の最も誇るべきは、それらとは全く別のものだった。

175,000㎡におよぶ園内には、京都や鎌倉などから移築された、歴史的に価値の高い建造物が巧みに配置されています。(現在、重要文化財10棟・横浜市指定有形文化財3棟)

三渓園公式ホームページ

無計画に訪れた客人の目線から見ると、なんとも無造作に、貴重な建物の数々が園内に鎮座しているのである。歴史的に疎い私でも知っているような、名高い歴史的著名人ゆかりの建物が、 ボンボンと。

例えば、春日局が譲り受けたと言われる、川べりの家。

せせらぎを愛でる、川べりの邸宅。
秋の美しさは想像に難くない。

江戸時代後期に建てられた、国の重要文化財「箆原家住宅」。岐阜県の白川郷の上級農民だった箆原家の、合掌造りの邸宅。内部も見学可能で、ここがすごくいい。

外観を撮り忘れましたので、
公式より拝借(よって冬の感じ)
ほぼ貸し切りであったため、
室内で我が家のように寛ぐ面々。

まさに「本物」に触れる経験ができる。 それにしても、こんなに気楽にお邪魔していいものだろうか。

一同が目を奪われた、扇子模様の欄間。
美しい。
縁側も貸し切りで。

その他にも、織田信長の弟・織田有楽氏が使用していた茶室、室町時代から京都にあった三重塔(同じく国の重要文化財)など、歴史に明るくなくとも「それは大層なものですね」と、思わず膝を打ってしまうような代物が、この園に一同に介しているのだ。当時の三渓氏の持つ力の大きさが伺い知れる。

いと素晴らしき文化財(改修中)を背景に。

散策の最中に、気づけばランチと3時のおやつまで、しっかり頂いていた。

三渓氏発案の、名物「三渓そば」
ほてった軀に染み入る、ゆずれもん。

ゆったり見て回って食べ歩き、気づけば軽く丸一日。



近頃の日本の夏は、東南アジアの友人も音を上げるほどの、蒸し暑く厳しいものだ。

文句の一つも言いたくなるような暑い日が続くが、時には早朝の(比較的)爽やかな時間帯に外に出て、 万葉歌人も一句詠んだと言われる蓮を愛で、 贅沢な朝食を頂く。充実した一日となることだろう。

そこに友人達との漫談が加われば、ひと夏の忘れがたい一日の出来上がりだ。

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