「旅人」とは、それでなくても美しいと言われる日本語の、その中でも一番と言っていいほど甘美な響きを持つ言葉だ。
その反義語は、明確に定義されてはいないが、定住者、引きこもり人、とでも言おうか。
「息子と旅をしています」と自己紹介をすると、その人が旅人であるか、引き込もり人であるかに関わらず、「良いですね」と言ってもらえることがほとんどだ。
それだけ人は旅に対して、無意識に魅力を感じるようにプログラミングされているのだ。
今日は、潜在意識的に「旅」に酔いしれるあなたに、ある本を紹介したい。
ある時は旅への渇望から足が痒すぎる昼下がりに、またある時は息子からのラリアットで起こされた残念な深夜に、ともに時間を過ごしている相棒だ。

これは旅本だが、映える観光名所が主役ではない。
そこに綴られるのは、20人の旅人の、20通りのストーリーだ。
それは例えば、初めての海外ひとり旅へ出た人、家族で海外へ移住した人、また旅嫌いなのに何故か行ってしまう人。
誰にでも出来ることを(時に苦悩しながらも)当たり前のように実行に移し、何かを得た人たちの軌跡が詰まっている。
作家の村上春樹さんの言葉で、こんなものがある。
・行こうと思えば_つまりその気になって、しかるべきお金さえ出せばということですが_まあだいたい世界中どこでも行けるんです。アフリカのジャングルにだって行けるし、南極にだって行けます。
・こうして誰でもどこでも行けるようになって、今ではすでに辺境というものがなくなってしまったし、冒険の質もすっかり変わってしまった。
・いちばん大事なのは、このように辺境の消滅した時代にあっても、自分という人間の中にはいまだに辺境を作り出せる場所があるんだと信じることだと思います。
辺境・近境 – 村上春樹
この文を読んで、妙に納得したことを覚えている。
辺境のない時代における、辺境とは。
その意味は、この「僕が旅人になった日」を読めば、よくわかるだろう。
日本人のパスポート所有率は、23%だという。
あなたは、その23%だろうか、残りの77%だろうか。
もしこの本を読んでも23%の仲間に入る気が起こらないというのであれば、
私が毎晩あなたの枕元に立って、この本を朗読してもいい。
コンテンツより、コンテキスト。
私の師匠が、毎晩枕元で呟き続ける格言である。

マレーシア旅行どうだった?と聞かれて、「ん、鹿かな」と答えた私も、結構旅人だなと思う(喜)