記念すべき人生初トルコ映画(人生初、は結構カンタンに作れることを実感する)は、
Netflixからジャケ買いならぬジャケクリックにて、こちらとなった。
ちょこっとお酒を引っ掛けながら深夜に観るのに、うってつけのいい映画だ。
明日への片道切符

原題は「Yarina Tek Bilet」。2020年発表の、比較的新しい作品だ。
大人がセンチメンタルな気分になりたい時に最適な、ロードムービー。
予告編はこちら。
制作費はかなり安く上がっていると思われる。
登場人物はほぼ2人、ロケはほぼ特急列車の車内のみ。
必要経費は、彼らの出演料+特急列車代+彼らが大量に飲んだ酒代くらいのものだろう。
ところが、この映画は本当におもしろかった。
ふたりの会話を軸に進んでいく、このシンプルな物語には、
人間の内側にある、自分自身では目を背けたくなるような色々な感情の起伏が、うまく表現されているのだ。
そういういう意味で、ある程度人生経験を積んだ大人にとっては、おもしろいだろう。
全体的に適度にアンニュイな雰囲気の漂う、「いい感じ」な質感の映像だ。
ハリウッドの超大作にあるような、迫力のあるグラフィックは無いし、
大どんでん返しのハラハラドキドキのような、物語としての山場も無い。
きっと10年前に観ても、おもしろさはわからなかっただろう。
年齢を重ねることは、記念碑的に美しい。
ちなみにジャケクリックしたくなったのは、この顔。

良くないですか?トルコ人俳優、期待大
(完全に主観)
私を含む多くの日本人にとって「トルコ語」は馴染みの薄い言語の一つだろう。
だからそう感じるのかもしれないが、トルコ語は音が綺麗だ。滑らかで耳馴染みがいい。
そして見事に1単語も分からないので、却って話に集中できる。
余談だが、私のように中途半端に英語や韓国語を覚えてしまうと、聞き取ろうとする意識が働いてしまう。
ところが残念なことに、聞き取ってすべて理解できる程には習得していないために、
いつしか頭の中は、音をハングル文字に変換する作業で忙しくなってしまうのだ。
トルコ語は、しばらく勉強しないでおこう。
Netflixの解説には、こう載っている。
イズミルに向かう列車の中で偶然出会った2人の男女。道中、言葉を交わすうちに2人の距離は縮まり、それぞれが胸に抱えている過去の恋が見えてくる。
明日への片道切符 / Netflix
短い解説だなと思ったが、中を見てみるとなるほど、こうしか書きようがない。
初対面の男女は実は、

世間って、狭いんだね
と思うような強烈な接点のあるふたりであり、
平たく言うと、彼らの「過去の恋」について、打ち明け話をしていくのだ。以上。
恋というものは、恐ろしい。
人間を活かしもするし、時に殺しもする。
そしてこのふたりは知らず識らずのうちに、過去の恋によって瀕死の状態にされつつあった。
納得のいかない別れ方をすると、その事実が亡霊のように、
しばらく自分から離れてくれないという経験は、身に覚えがある人も多いだろう。
このふたりがもし出会うことがなければ、
亡霊が常に肩に乗っているような、ゾンビすらも同情したくなる世界に、
彼らは生き続けていたかもしれない。
恋煩いで死ねはしないのに、ずっと縛られて生きていくのだ。
そういう意味では、人からの恋愛相談など、たいそう責任重大であったように思えてくる。
自分では迷宮に入っていることに気づいていない中で、
周りが適切な誘導ができなければ、当人は人生を棒に振りかねないのだ。
その一方で、誰がどんなアドバイスをしたところで、大した意味はないような気もする。
結局、当人かそれに相当近い人物でない限り、
目に見える状況に陥っている本当の理由を紐解いて上げることは、実は相当むずかしい。
人は、自分の見たい景色しか見ていない。
振り返れば、そんなことばかりだったようにも思える。
(そして大人は鑑賞後、だいたいセンチメンタルな気分になるのだ)
恋愛や人に不信感や絶望感を持っている、劇中の女の言葉で、印象的だったものがある。



空っぽな心に抱いておけるものが必要。
仮に何も本当の意味で真に信用できない、
また不変なものが何もない世の中で、
なにかを心に留めておくことで、自分を保っておくためには?
その「抱いておけるもの」が、過去の記憶しかないとしたら…
(しかもそれは大抵、8割増し程度は美化されている)
それはもう結構、人生を棒に振っている状態かもしれない。
過去に執着し、あの頃はよかった、といいながら生きる人生など。
(やっぱりセンチメンタルになっている)
これから彼らが幸せになれるかどうかは分からないが、
振り切るべき過去と決別するキッカケは手にしたようだ。
主軸はこういったおセンチな(死語か)内容であるが、
コメディタッチに描かれるシーンも多く、にやっとさせてくれる場面も多々。
肩の力を抜いて観られるので、今晩ぜひ。
人生一度くらい、執着のひとつでもしたくなる恋愛に遭遇するのも、
いいものかもしれないと思わせられる。(むしろ羨ましい)
カンタンに人物紹介
ジャケクリックさせた人、メティン・アクデュルゲル。
ご両親はギリシャ、マケドニアからの移民だそうだ。良き。
一方(多少)病んでるヒロインはこちら、ディラン・チチェク・デニス。
2014年のミス・ユニバーストルコ代表のスーパーモデル、さすがお綺麗なはずだ。
Instagramは大変便利だ。
言葉も読めない異国の俳優の情報も、一発ヒットする。
物語とは関係ない発見たち
トルコ映画ばかり観る月間の目的の一つは、
なぜ私がトルコに惹かれるのか、その理由を究明することである。
映画の本筋とは別に、おもしろいと思った文化の違いなどを羅列してみる(完全に主観)。
ケバブには、チキンとビーフがある
実際は、ラムなどもあるようだ。
トルコ料理は全体的に、日本人の口に良く合うと思う。
世界三大料理のひとつと言われるだけの理由を、追求してみたいところだ。
特急列車の個室の掟
この映画の舞台は、トルコ国内を走る寝台機能付きの特急列車だ。
作中、車掌から婚姻関係の有無を問われ、違うと答えると罰金を徴収される場面がある。
未婚の男女の同室は、違反なのだ。
罰金さえ払えば通してくれる程度の違反というのは、その程度の規則なのだろうと思うが、
トルコ訪問の際は気をつけよう。
そう言われれば、トルコではカラオケ店なんかも、この規則が適用されるのだろうか。
そもそもトルコには、カラオケ店はあるのだろうか。
日本人の「血液型占い」に相当する
日本人同士ではつい、血液型で性格判断をしたがる傾向があるが、
作中で彼らは「星座」で性格を判別していた。
さそり座の女、というフレーズがあるくらいだから、
日本人にも外来そのけがあるのかもしれないが。